「〈grounds〉にクラシックな要素を加える」 堀内太郎×坂部三樹郎:前篇
〈TARO HORIUCHI〉と〈th〉を手がけるデザイナー堀内太郎と、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミー時代の学友でもある〈grounds〉のディレクターを務める坂部三樹郎が対談。前篇は、クラシカルなレザーアッパーを採用したコラボレーションシューズのデザインプロセスから、〈grounds〉の真髄ともいえる進化を遂げるアウトソールの重要性までが語られます。
”BLACK and WHITE”
期間: 9月21日(月) - 9月27日(日)
時間: 12:00 - 20:00 (21 日のみ 16:00-20:00)
場所: GALLERY202
住所: 東京都渋谷区神宮前 5-17-24 CAT STREET BUILDING 2F(カンナビス隣)
※〈ティーエイチ(th)〉とのコラボレーションアイテムは予約販売となります。
※予約はオンラインストア経由で、当POPUP会場で試着ができます。商品は、2021年2月以降に順次お送りします。
堀内太郎。2007年、アントワープ王立美術アカデミーを首席で卒業。イタリアのコンペティション「ITS」でディーゼル賞を受賞し、DIESELカプセルコレクションを13カ国で発表。帰国後、坂部三樹郎らと共に、東京ミッドタウン・21_21DESIGN SIGHTで開催された「ヨーロッパで出会った新人達」展に参加。2008年に渡仏後、2010年春夏より〈TARO HORIUCHI(タロウ ホリウチ)〉を立ち上げる。2018年秋冬より〈th(ティーエイチ)〉をスタート。ウェアラインだけでなくラックやハンガー、鏡、テーブル、スツールもオリジナルで展開している。2012年、第30回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞。
——親交の深いおふたりですが、今回のコラボレーションの経緯をお聞かせください。
堀内太郎(以下、堀内):どちらからともなく、「何かやろうよ」という話は前々からしていたんですけど……。〈grounds〉の前身のレーベル〈GIDDY UP〉がパリでショーを発表したのはいつだっけ?
坂部三樹郎(以下、坂部):2018年9月だね。
堀内:その頃から、新しく発表されるプロダクトの数々だけでなくブランドとしての過程をずっと見てきていました。僕自身も当初から「ジュエリー」を時々履いていたんです。たしか今回のコラボが具体化しはじめたのは昨年末くらいですね。僕だったらこれまでの〈grounds〉とは違うアプローチで、クラシックな要素のあるシューズにしたいと思い、三樹郎君に声をかけたのが始まりです。
——スタート当初からみている堀内さんの目には〈grounds〉の魅力はどのようにうつっていましたか?
堀内:一般的にスニーカーは機能性に重点をおいたものが多いじゃないですか。一方で、この数年はアナログな要素をより過剰にしていく、例えば〈BALENCIAGA(バレンシアガ)〉などのファッションスニーカーが流行っていた。〈grounds〉はこれらの中間にある印象があって、ファッション性よりもテック的ニュアンスがあり、どこか未来的で、僕が思う三樹郎君の要素が混ざり合っている。そこに新鮮さを感じていましたね。
——今回はデザイナー同士のコラボレーションという側面もありますが、意見が拮抗したり、難しさを感じたりした場面はありましたか?
堀内:いや、デザインの過程は本当にシンプルかつスムーズでしたよ。ほとんど会話がなかったよね(笑)
坂部:そうだね。ただ、自分たちがまだアントワープ(王立芸術アカデミー)の学生で、僕が4年生、太郎が3年生のときだったら喧嘩していたかもしれない(笑)。仮に知らないデザイナー同士でやると、きっと、非常に難しいんだろうと今回やってみて思いましたね。太郎と僕は学生時代から知る仲だし、ベースとして学んできたこともデザイナーとして大事にしていることも似ている。経験も蓄積されているし、お互いに絶対にはずさないと分かっているところも。もし太郎が何もデザインしなくても、俺が太郎っぽいものを出したらオッケーだった可能性も十分にある(笑)
堀内:それはあるかもしれない。ただ、僕は三樹郎君のデザインはできないけどね(笑)
——知り合ってからの年月も含め、お互いを熟知されている感じがひしひしと伝わってきます(笑)。これまでの〈grounds〉ではチョイスされてこなかった革素材のアッパーを採用したデザインについてお聞かせください。
堀内:まず、〈grounds〉のプラットフォームとしてアウトソールのキャラクターが非常に強いからこそ、クラシックの要素を加えるだけでプロダクトとして成立すると容易に想像できていました。むしろ、生産の時点で問題が起こるんじゃないか。例えば、革とソールの接着部分の強度だとか技術的な部分が大切になってくると思っていたので、レザーをアッパーに持ってくることがプロダクションとして実現可能なのかは懸念点としてありましたね。
坂部:けっこう知らない人が多いんですが、スニーカー業界と革靴業界は同じフットウェアでもまったく違うんです。例えば、東京の下町にある革靴メーカーとスポーツメーカーは、持っている知識や製法、技術力がまったく異なるんです。これまで〈grounds〉でレザーを使うことは考えていませんでしたけど、革靴と、このソールを合わせることにかなり実験性があるとは思っていました。その試みのきっかけが、〈th〉だったということですね。
堀内:やってみるとファーストサンプルでベースはほとんど完成して、セカンド以降で微調整をしていくという、かなりスムーズな流れでした。
——「クラシックを加える」というアプローチは、〈TARO HORIUCHI〉ではなく、〈th〉としてのコラボレーションである理由ともつながっていますか?
堀内:そうですね。〈TARO HORIUCHI〉はどちらかというと、流動するファッションを捉えている意識があるので。靴に関していうと、僕は15年前くらいからほぼ〈adidas(アディダス)〉のスタンスミスしか履いてこなかったんです。他には冠婚葬祭用に唯一持っているのが〈Alden(オールデン)〉の革靴で、もっともクラシックな990のモデル。シンプルでクラシックなアッパーがすごく好きなんです。〈th〉では、ウェアラブルを指向しながら僕が考える“普遍性”とは何かをつかもうとしている。コレクションを構成するものもプロダクト的であって、キャラクター性の強いものはつくりたくないと考えています。では、〈grounds〉とコラボレーションするときにどんなものを提案するべきなのかと考えると、やっぱり普遍的に、僕が嗜好するクラシックな要素を強調したものをつくりたいと思ったんです。
——堀内さん自身の嗜好性も、〈th〉が提示する普遍性とも深く関わっている。
堀内:今日も次のコレクションで発表するジャケットのフィッティングをしていたんですが、そのベースは今から100年前、1920年代のジャケットなんです。僕が〈th〉でリファレンスとしているのは、90年代の〈RAF SIMONS(ラフ・シモンズ)〉や〈Helmut Lang(ヘルムート・ラング)〉もあるし、60年代のイギリスの特殊部隊のミニタリーパンツもある。つまり、100年間くらいのさまざまな時間軸の中でのファッションをアーカイブとして見直し、その歴史をすべてフラットな目線で解釈して、現代に落とし込むことを意識してやっているんです。〈th〉で提示する普遍性のある服はあくまで“素材”であるともいえるので、強いキャラクターを持つ〈grounds〉とコラボしても、〈blackmeans(ブラックミーンズ)〉とやってもバランスを保ったものになるんじゃないかという考えに基づいているんです。
——〈grounds〉のあり方をプラットフォームと捉えていると坂部さんはおっしゃっていました。
坂部:はい。〈th〉には、オリジナリティを強くおしだすことはないけど、〈grounds〉とはまた違うタイプのプラットフォーム感があると思いますね。この2つを混ぜると、よりプロダクト然としたものに落とし込めるんじゃないかという点は気になっていたし、コラボレーションをする理由だったといえるかもしれない。
堀内:たしかに〈th〉をベースにしながら色々なことをやりたいと考えていますけど、普遍性という意味では、もっと根幹の部分を掴みたいと思っていますね。例えば、美術商をしている僕の父は数千年前の美術品を扱ったりするのですが、やっぱり、数千年前の人が「良い」と思ったものを、ときを経て現代の人が改めて「良い」と思う感覚がすごいと思っているんですよ。それと同じで、僕が100年前のジャケットを見て「良いな」と思う感覚を、現代に落とし込みたいんです。そして、僕が今つくったものを50年後の人が見たときにアーカイブしてくれるような一着であったらいいなとも思っているんです。
坂部:今回のシューズを〈th〉の展示会で履いた人は、どういうリアクションがあった?
堀内:「意外と履きやすいね」の感想が多かった。やっぱり見た目は奇抜さがあるし、ソールの厚みで背が高くなるから履きにくいんじゃないかと直感的に思うからね。それと、単体で持つとそれなりに重みがあるのに、実際に履くと物の重さを感じないのも特徴だよね。
坂部:ソールに傾斜を作っているから、革靴や底がフラットになっているスニーカーとは違って足の運びがスムーズで重さを感じないんだよね。
——歩く動作をサポートするようにソールにカーブが生み出されているのは、〈grounds〉のフットウェアの最大の特徴だと思います。
坂部:はっきり言って、そこが肝ですね。ウエイトだけなら〈NIKE(ナイキ)〉よりドン・キホーテの靴の方が軽いかもしれない。重要なのは、歩き心地の感触をどう捉えるのかを徹底して考えることなんです。フットウェアにおいて、ソール開発こそ根本的な進化を担っていく部分だと思っていて、そうして実現できることが歩き心地の変化なんです。日々の生活にある“歩く”の変化を、どうやって靴の底と連動させるのかが〈grounds〉のデザインのテーマにもなっている。当然、ビジュアル面もあるけど、5センチだけ視界の位置が高くなるだけで日常の雰囲気は変わると思うんです。特に男性は、ヒールなど背を高くする靴を履くことは多くないから、けっこう珍しい体験だったりもしますよね。つまり、ソールがプロダクトとしての根幹で、アッパー部分はファッション性を担っている。言い換えると、アッパーには時代性、ソールに関しては生活や身体の「環境」が関係しているんです。例えるなら、建築の意匠と構造の考え方に近いのかもしれませんね。
Photography : Yuichi Ihara
Text : Tatsuya Yamaguchi
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