「長く履きたくなる一癖あるもの」emma×坂部三樹郎:対談 前篇
数々の雑誌、テレビや映画に出演するモデル・emmaと、学生時代から彼女を知る〈grounds〉のディレクター・坂部三樹郎が対談。長い交流関係の延長にはじまった今回のコラボレーション。コラボレーションアイテムのメインテーマは、なんとサッカーシューズ。シンプルかつ一癖あるものが好きというemmaさんのバランス感覚から「オリジナルを見抜くセンス」について紐解きます。
——おふたりの出会いは、まだemmaさんが学生の頃だったそうですね。
坂部三樹郎(以下、坂部):8〜9年前くらいのことだよね。〈Jenny Fax〉のモデルとして声かけたのが最初の出会いだったと思う。
emma:うわ!なつかしい(笑)もともとは〈writtenafterwards〉で初めてランウェイショーに出させていただいて、そのあとデザイナー・山縣さんの紹介で知り合いましたよね。
坂部:すごく大きなシルエットの服着てたよね。見るからに歩けなそうな服で、こけたら大変なことになりそうな(笑)。学生時代からモデルの仕事してたのは、どういうきっかけなの?
emma:そうそう、モデルってこんなに大変な職業なんだあって洗礼を受けました(笑)。文化服装学院に通っていたのですが、学校にいると自然とモデルやってくださいってチャンスが多かったんです。もちろん当時からモデルには興味があって、その時も親友と2人で誘われて一緒に出ましたね。
—— 今回のコラボの話をし始めたのは、いつ頃からでしょうか?
emma:今年の7月頃に、はじめてミーティングしましたよね。雑誌「198201111959」の編集長・山﨑さんをきっかけに本格的にコラボレーションの話になりました。
坂部:それまでも、展示会など定期的に会う機会があったよね。デザイン画からスタートというよりかは、話しながらお互いにイメージを共有していくような感じで進めていって。最初に、emmaちゃんが希望するデザインを聞いた時から、最後まで何も滞りなく進んで、一緒に精度を高めていけたと思う。具体的に何をやりたいか明確に提示してくれたから、完成までもっていきやすかったです。
emma:そう言っていただけて嬉しいです。初めてスニーカーのデザインを考えてみたけど、難しいより楽しいの方が強かったですね。まずは、最初の打ち合わせまでに〈grounds〉の全アイテムと今までのコラボレーションアイテムを念入りにリサーチするところからはじめました。もともとJEWELRYの形は好きだからこそ、いかに〈grounds〉らしい魅力を活かしたまま、なにか今までとは違う新しいものをつくれるか考え続けて。そうして辿り着いたのが、サッカーシューズでしたね。
——サッカーシューズというモチーフを選んだきっかけは?
emma:もともとサッカーがすごい好きなんです。でも、普段サッカーシューズぽいものを探すと、選手用の本気なものばかりで、ファッションとしておしゃれに履けるものって中々ないんですよね。それで、素直に自分が欲しいものということはもちろんですが、サッカーシューズと〈grounds〉をうまく融合できたら面白いなと思って、最初の打ち合わせから具体的に提案してました。
——実物を見たときに、素材、カラー、デザインすべてにおいて、いい意味で〈grounds〉の新しい魅力が引き出せたように感じました。
坂部:デザインを奇抜にしないで、特徴を出すってすごい難しいことだと思う。逆に、ちゃんと明確なイメージがあったからこそ、サッカーシューズのアイコン的なタンを伸ばしただけで〈grounds〉の印象を変えることができたんじゃないかな。でも逆に、なんでタンを出すだけでこんなにサッカーぽくなるのかは不思議だけど。
emma:野球も一応ありますけど、やっぱり印象的なイメージとして残ってるからですかね。このディティールだけでスポーツ感が一気に出ますよね。
——男女両方履けそうな印象も新鮮でした。
emma:そこも意識してイメージをつくっていきました。実は、学生時代の服装がいまと違ってめちゃくちゃ派手だったんですよ。蛍光ピンクの服を着てたりして(笑)。
坂部:えー!意外。
emma:それから自分が大人になるにつれて、長くベーシックなものを着たいっていう意識が次第に強くなっていって。でもただ単にシンプルなものっていうよりも、やっぱり個性的なものも着たいって想いもあるから、いつも自分で買う服も一癖あるものを選ぶんですよね。だから今回も、例えば靴紐2色だけでも印象を変えられたり、タンをキーポイントにしたり。そういうふうに一癖あるけど、どんな人でも長く履けるようなスニーカーを目指しました。
坂部:よりファッションらしいコラボレーションになったと思う。サッカーシューズのイメージが、カラーとマットな素材によって上品に感じられて、モードの文脈として見てもいいなって感じます。
—— さまざまなコラボレーションをしてきた中で、emmaさん独自の感覚を感じる場面はありましたか?
坂部:感覚的にドメスティックではなく、すんなりグローバルな感覚を持っていることですね。日本に長くいると、メジャーなマーケットで流行ってる服を街でよく目にするじゃないですか。そうすると、自然と日本特有のかわいいやかっこいいという感覚に馴染みがでてきて、自分で選ぶものも自然とドメスティック的なものになることもある。でもemmaちゃんは、やっぱり新しい目線で発想してくれるのが面白かった。
emma:そう思ってもらえて嬉しいです。
坂部:単純な話、そもそもサッカーシューズ自体をかっこいいものかどうか見極める力が必要じゃないですか。それを自分でちゃんとグローバル的な視点で見て、おしゃれになるかどうか分かっていた。それは、emmaちゃんならではの目線だったと思う。
― emmaさん自身の審美眼がデザインにあらわれていたんですね。
坂部:そうそう。普段から見ているものが、ちゃんと反映されていた。これだけあらゆるジャンルの服が売られてると、どれがオリジナルで、コピーなのか判断があやふやになる可能性もある。でも、そこをemmaちゃんは、パリやロンドンなど海外のファッションショーでさまざまなブランドの服に触れているからこそ、自然とオリジナルなものを見抜けていたと思います。そういえば、学生時代はデザインを勉強していたの?
emma:ファッション流通科という学科に通っていて、1年生でパターンから刺繍までひと通り服作りについて勉強しました。入学当時は、まだモデルになれるなんて遠いことのように思っていて、ぼんやりとバイヤーにも憧れてたりもして。2年生で自分の目指したい職業のコースにに進めるのですが、1年生の段階では、とにかく基礎的な服作りの課題に追われていて(笑)。ジャケット、パンツ、シャツもつくりましたよ。
坂部:ベースになる部分はひと通りやってるんだね。
emma:やったんですけど….いま思うと本当に課題の量についていけなくて、今じゃできないかも(笑)でも文化服装学院に行ったからこそ、色々な出会いとともにモデルへの道が開けたと思います。
Photography : Yuichi Ihara
Hair & Make : Rei Fukioka
Text : Yoshiko Kurata