「行動力が全てを変える」emma×坂部三樹郎:対談 後篇
emmaと坂部三樹郎の対談後篇は、お互いのファッションの目覚めからはじまり、SNS時代に大切なこと、そしてemmaの将来の目標まで。ファッションを軸に歩む過去から未来まで語ります。
ー 前篇でお話ししていた通り、学校でのさまざまな出会いによりモデルの道が切り開けたようですが、入学前からモデルに興味があったのでしょうか?
emma:入学時は、モデルのほかにもバイヤーにも興味があったんです。北海道出身なので、入学するまで周りにファッション業界の方もいなくて、そもそもどんな職業と内容があるのか知らなかったから。ぼんやりと海外に買い付け行けるから楽しそうという気持ちで、バイヤーになりたいなあと思ってました。むしろ入学後に、業界の中でスタイリストやヘアメイクなどそれぞれ特性にあった職業があるって分かってきて、やっぱりモデルを目指そうってしっかり思うようになりましたね。もちろん一握りの世界だから、そう簡単になれるとは想像もしていなかったですが。
ー モデルを目指すこともそうですが、すべての原点となるファッションへの目覚めはいつ頃だったんでしょうか?
emma : 原宿のファッションカルチャーですね。ちょうど高校生の頃に、ZipperとFRUiTSがめちゃくちゃ好きで、毎月それぞれ買ってたんです。スナップの中からお気に入りのスタイルを見つけては、地元の北海道で同じ服を買えない代わりに古着屋で似たような服を探して、自分なりにアレンジしたスタイリングを楽しんでました。当時はInstagramがなかったから、雑誌から受ける刺激がより強かったように思いますね。なので文化服装学院に入る前から、もちろん〈MIKIOSAKABE〉、〈JennyFax〉は知ってました。ミキオさんのファッションの目覚めは、なにがきっかけですか?
坂部:大学生の頃かな。東京に今と違うトレンドがあった頃で、カルチャー寄りのファッションが流行ってた時期だったね。〈Maison Margeila〉を筆頭に、独自のコンセプチュアルなイメージを持ったブランドが台頭して、海外と同じ熱量で日本でも人気があった。同時期に、日本では裏原が登場して、ちょうど〈A BATHING APE®〉や〈UNDERCOVER〉などが話題を呼んでいたから、国内外どちらもファッション自体への熱量が高かったと今でも思うよ。
emma:いまと全然違いますね。楽しそう。
坂部:今ほどネットでの情報流通が普及していない頃だったから、一箇所に面白い現象が集まりやすかったかもね。「原宿」っていうフィジカルな場所が熱を持っていたこともあると思うけど、当時は本当に誰しもがファッションの力を信じていた。そこに、日本では同じくらいのエネルギーでアニメや漫画などサブカルチャーも特異的に台頭してきて、ファッションとサブカルチャーの融合に面白さを見いだせていたと思う。
emma:いい時代ですね。
ー 逆にいまだと、SNSの普及でハイブリッド的に誰でもジャンルを横断してカルチャーに触れることもできますよね。
坂部:emmaちゃんみたいに行動力があると、そのSNSの力が活きると思う。行動力がないと、溢れる情報をただ単に見て満足するだけで、自分のものにして能動的に行動へ移すまでいかない。そこをemmaちゃんは本当に海外へ訪れてみて、すぐに実行しているのがすごい。行動するまでが一番大変だったりするからね。
emma:行動力は大切ですよね。でも、まさに実行するまでの過程が一番大変です....。最近、パリのファッションウィークへ訪れるようになって、いまだに一人で乗り切る道中が一番辛くて(笑)。まずパリの前にサッカー観戦のためにイギリスを経由して行くんですけど、初めて渡英した時は何回も泣きそうになりました(笑)。一人で両手にキャリーバッグと背中に大きな荷物を抱えて、自分の身は自分で守らなきゃって緊張感もあるし...。今はもうパリに5回以上行っているので、街の雰囲気も人も分かって慣れてきてはいますけどね。そういう過程を乗り越えた先にある満足感と有意義な体験を味わえたことが、何度でも行きたくなる原動力になっているのかも。
ー ファッションウィークに訪れる最初のきっかけはなんだったんでしょう?
emma:これも雑誌「198201111959」の編集長・山﨑さんのおかげですね。
坂部:山崎さんとの出会いのきっかけは?
emma:以前、一緒に仕事をしたことがあったんですが、仲良くなったのはその数年後ですね。周りに共通の知り合いがいたことでグッと仲良くなりました。身近にいて、ファッションに詳しい人と言ったら山崎さんだったので、3年前くらいから色々相談に乗ってもらってたんです。梢ちゃん(秋元梢)が先にパリに行ってるのも見てたし、私もいつか行けたりするのかなあってぼんやり考えていて。でも実際に滞在するとなると、仕事を長期的に休まなければいけないからマネージャーさんと何度も話し合って、理解の上でようやく行けるようになりましたね。なので、海外に滞在することはもちろん、ショーを鑑賞できること自体も周りの方々のおかげだと思ってます。
ー 現地でショーを実際に観て、モデルのお仕事にも相互作用がありそうですね。
emma:そうですね。ショーで観た服を撮影で着るときに、その服の裏側に込められている背景を考えるようになりました。それこそ学生時代にファッション史の授業で、過去のファッションショーをそれぞれブランドと年代ごとに分けて説明を受けることがあったんですけど、当時は何もリアリティがなかったんです。莫大なことすぎて、ショーピースを観て単純に何これ?と感じていて(笑)。でも実際にパリでショーを観てから、やっと腑に落ちましたね。アトリエとショールームで作り手のお話を聞くとなおさら、この服一着に対してどれだけの人が関わっているのか実感できました。デザイナーさんとお話すると、コレクションのストーリーもよく理解できて、思わずパリでたくさん洋服を買ってしまいそうになります(笑)。
ー ここ数年テレビや映画など活動の場は広がっていますが、今後もファッションを軸に活動していきたいですか?
emma:むしろファッションしかないですね。やっぱり10代からずっと飽きずに好きでいられているのが、ファッションだから。唯一の趣味であり、一番好きなことです。
ー 今後の目標を教えてください。
emma:いつかは自分のブランドを持ちたいです。実は、学生時代から願ってたことでもあるんですけど...。
坂部:まだやらないの?
emma:タイミングを見計らってます。
坂部:モデルを辞めたあとにブランドを始めるというよりも、どちらも並行してやった方がよさそうだよね。今回のコラボレーションもそうだけど、あまり突き詰めすぎず、実験的かつ軽やかなデザインでオリジナリティを持てるタイプだと思うから。
emma:ありがとうございます。最近、やっと今まで経験してきたものすべてが自分の中にストックされ始めているような気がするんです。原宿系ファッションが好きなところからはじまり、「ViVi」でメインストリームのファッションを吸収して、ここ数年パリで色々な世界観のブランドのショーを見ることで、自分なりにやりたい方向性がようやくまとまってきたと思います。やるからには絶対続けたいので、実行するまで今は構想を練っています。
ー そう思うとモデルを始めるタイミングにも、ブランドを始めるタイミングにもemmaさんとミキオさんには接点がありますね。
emma:そう思うと不思議な縁ですね。
坂部:節目になるようなタイミングで、今後もemmaちゃんと一緒になにか仕事をしていくのかもね。
Photography : Yuichi Ihara
Hair & Make : Rei Fukioka
Text : Yoshiko Kurata