「メンタルを動かすファッション?」 最上もが×坂部三樹郎:後篇
最上もがと坂部三樹郎の対談後篇は、今、最上さんが感じているファッションの面白さから、コロナによって大きく変わった日常を探る刺激的な話題まで。コラボレーションを経たふたりが、未来に期待することを語ります。
——最上さんは子どもの頃からファッションを好きでしたか?
最上もが(以下、最上):おしゃれはすごく苦手でしたね。制服で良いなら制服の方が良かったです。服を買うのも、地元のショッピングモールのような場所で親と選ぶくらいだったので、私服を着る恥ずかしさもありました。できれば大人になりたくないって思っていたくらいです。
——ファッションの楽しさに目覚めたタイミングはいつだったのでしょうか?
最上:たぶん、高校2年生くらいですね。すごく仲の良かった友達が読んでいた雑誌『Zipper(ジッパー)』がかわいくて、そこでようやくおしゃれすることが楽しそうって思うようになりました。その友達とフリマに行ったりするようになった頃から自分なりにファッションの楽しさに気付き始めました。
それから、でんぱ組.incのアートディレクションがすごくおしゃれだったんです。それこそ、ぼくも『Zipper』の表紙をやりましたし、ファッションアイコンとして売り出してくださっていたんです。雑誌に呼んでもらう機会が増えて、撮影の現場で本当にたくさんの服を着て、いろいろなメイクを体験していくと、ファッションがどんどん楽しくなって自信もついてきたし、だから、本当の意味でファッションを楽しむことを知ったのは実は大人になってからなんです。
——前篇でも話題にあがった意図的にリズムを変えるファッションという見方でいうと、ドラマやバラエティに出演されるときの衣装もそのひとつですよね。
最上:ぼくの場合は特殊だと思うけど、楽屋でメイクをして衣装を着るとオンとオフが切り替わるんです。〈最上もが〉のスイッチを入れるためにファッションはとても重要で、ファッションの変化によってキャラを作って演じられるんです。例えば、バラエティ番組で女性らしいロングスカート姿をしているとそういう態度をとっていたりしますし、ボーイッシュなシャツにパンツスタイルだったらまた違ったりして、見た目に自分のメンタルが影響されることが自然と身についているんだと思います。
——ファッションひとつでメンタルを変えられるのは、ファッションが持つ力のひとつかもしれません。
最上:変えられると思います。ぼくは、自粛期間中にTシャツと短パン姿でだらだらとゲームやっていたりして自分がどんどんダメになっていくのを感じたんです。正直、だらけることはいくらでもできるけど、同時に自分を嫌いになっていくような感覚さえ湧いてきました。それである日、プリンヘアになっていた髪を水色のカラーバターで綺麗に染め直したんです。その後ばっちりメイクして、かわいい服を着てみたら「あ、まだ生きてる!」って思えたんです(笑)。服に似合うメイクや髪型にしようと行動すると自信が湧いてくるんだと、そんなことも最近すごく考えたし、着ている服がかわいかったら純粋にテンションも上がりますしやっぱり楽しいです。だって何にでもなれるんだから(笑)
坂部三樹郎(以下、坂部):よくわかります。精神的な面で現実から脱出する方法のひとつに、ファッションがあるのかもしれないね。
——コロナ禍によって、それまで当たり前だった日常が当たり前じゃなくなってしまいました。
最上:そうですね。いろいろと考えることもありますが、例えば、戦争のさなかに生きている人たちにとっての「日常」って今ではまったく日常ではないじゃないですか。今の状況だって、時間が経つと「コロナ何期」とか括られているかもしれないですし、そうやって「日常」もどんどん変わっていくんだと感じると、ひとつの時代の節目ができたのかなと思っています。
坂部:本当に、もがちゃんが言う通りだと思う。僕は、世界がこんなにも変わるんだとびっくりした。
——例えば、第2次世界大戦後に、ファッション史に刻まれる〈ディオール〉のニュールックが生まれたわけは、戦争を乗り越えた人々が新しい日常を求めていたのだとする解釈もあります。最上さんのいうような「時代の節目」には、新しいクリエイションが生まれる可能性も潜んでいるようにも思います。
坂部:まさにそうですね。パンデミック以前は、おそらく世界中のデザイナーの視野に「壊さなくてはいけない日常」があって、人々の日常をどうやってアップデートしていくのかという発想が根幹にあった。しかし、激変したアフターコロナの世界では、壊すことだけをやっているとダメなんだなと思うんです。当然、世界を見渡して何かを変革していこうということではなく、個人個人がもっている純粋さに戻っていく。そんなクリエーションの時代が来るんじゃないかと思っていますね。
最上:どんなファッションをするかという話だと、最近は、個人ではなくって「みんなと一緒なら良い」「同じなのがかわいい」という考え方に落ち着いていましたよね。以前ってもうちょっと自由や奇抜さがあって、そういったものが受け入れられて評価されていた時代があったのかなと思います。そうしたファッションの考え方に戻るのではなくて、今の状況とはまた違う方向に向かっていくんだろうなという楽しみは感じますね。
——そうしたことも含めて、ファッションの未来に対して期待することはありますか?
坂部:もがちゃんの言うように、情報を得る方法が似ると人々が似てきてしまうというのは、現代の良い点でもあり悪い点でもあると思いますね。例えば、シンプルで大量生産された手軽な服ばかりをこぞって着ていると、それが大衆的なユニフォームになってしまう。自分たちのそれぞれの多様性と向き合ってみたり、横並びの環境から抜け出すための第一歩目としてファッションはすごく大事なんじゃないか。そういう観点からも、〈grounds〉には、歩くという日常の動作の中で、これまで普通だと思っていたリズムに変化を与えるものにしたいという考えがあるんです。
最上:ぼくは、ファッションでもっとワクワクしていたいなと思います。よくストレス発散のためにZOZOTOWNを見て注文したりするんですけど、「なぜ買うのか?」と聞かれたら「自分の気分を変えたい」でしかないんですね。ただ、誰でも着られるものを目指しているブランドはサイズの展開も多くて、確かに着ること自体はできるけど、もちろん特定の個人のために作られているわけじゃない……。そんなことを考えていたら、たまたま昨日友達がツイッターで「ネットで買った服のサイズが合わない、自分専用の服が欲しい」と呟いていて、すごく共感したんです。サイズ表記としては「S」でも、実際はお店によってバラバラで、シルエットも全然変わります。もし今後、店頭に行けず、実際に試着する機会が減ってしまい、通販でしか洋服を買えない状況になるかもしれない。そういう時に、オーダーメイドのようなものが、もう少し安い値段で展開されたらもっとファッションが広がっていくんじゃないかなと思ったんです。ぼくの希望ですね(笑)
——服を選ぶ方法が、もう少しパーソナライズされていくとファッションの楽しみ方も変わっていきそうです。
最上:自分が太って似合わないなら体を鍛えれば良いと思うし、着方次第で解決できることもあると思います。だけど、やっぱり個人の単位で、個人に合わせたものに手が届くようになると良いなって思います。あと、バーチャルで試着ができたら超いいなって思いました。
坂部:なんなら技術的には実現できそうだよね。
最上:モデルさんが着ているとかわいく見えるけど、いざ自分が着るとどうだろうって思うじゃないですか。全身を撮ったものがデータ化されていて、ボタンひとつで自分が着たイメージが映像でみえたり、レーザーか何かで立体的に投影されたりするとか……。SF映画みたいだけど、すごく未来的で良いですよね(笑)
Photography : Yuichi Ihara
Hair & Make : Hitomi Mitsuno
Text : Tatsuya Yamaguchi