「履きたかったマーブル柄の靴」 のん×坂部三樹郎:対談 前篇
女優として、そして、“創作あーちすと”として様々な表現活動で知られる、のんと〈grounds〉がコラボレーションシューズを発表する。イメージビジュアルの撮影を終えたばかりの彼女と、ディレクター坂部三樹郎が対談した前篇では、のんが自ら描き下ろし、ニットアッパーにプリントされたマーブル模様のアートワークが生み出す新鮮なクリエイションについて。
——おふたりは、今回のコラボレーションでほとんど初めてお話しされたとうかがいました。
坂部三樹郎(以下、坂部):あいさつ程度だったと記憶しているんですが最初にお会いしたのは、のんさんがCMにも出演していたCAMPFIREの家入一真さんが経営するON THE CORNERとのんさんのコラボ「NON THE CORNER」のイベントで紹介を受けたときでしたね。
のん:そうでした。私が緊張しがちだっていうのもあるんですけど、あの時のことで覚えているのは「挨拶しちゃいけなかったかな」って思ったこと。会話もなく、お互いいっとき止まっちゃっていましたよね(笑)
坂部:そうでしたね(笑)。お仕事上での接点では、さやちゃんという共通の知人が……
のん:はい。私がやっている「KAIWA(RE)CORD」という自主音楽レーベルを一緒にやってくれている女の子です。
坂部:彼女はCAMPFIREのエンターテイメントチームにいることもあって僕も知り合いではあった。のんさんとは直接会っていないけど、レーベルでの活動で〈MIKIOSAKABE〉や〈Jenny Fax〉を衣装に使ってくれるということでさやちゃんが都度きてくれていて。そういう意味では客観的につながってはいたのかなと。
——のんさんはコラボ以前から〈grounds〉をご存知だったかと思いますが、初めてシューズを見たとき、履いた時のことを覚えていますか?
のん:「こんなスニーカーがあるんだ!」という純粋な驚きがありました。ソールのかたちもボリューム感にもびっくりしましたし、他にないデザインですよね。最初は「似合うかな?」と思ったんですけど、履いてみるとすごく足にフィットするし“ぴょんと跳ねる感じ”が面白い。歩くのが楽しくなるし、今はプライベートでもかなり履いてます(笑)
坂部:おお。そういう体験性は、僕たちがフットウェアデザインを通して目指していることのひとつですし、嬉しいですね。
のん:コラボレーションするにあたって初めて打ち合わせをしたときに、坂部さんが、厚底なんだけど厚底に見えないところがおすすめポイントなんですとおっしゃっていて、納得したんです。身長もアップできるし。浮遊感もあって、すごくお気に入りです。
——それでは、今回のコラボレーションの経緯をお聞かせください。
坂部:〈grounds〉側からオファーをさせていただきました。正直、のんさんと交流が深いわけではなかったのですが、個人的かつ絶対的な印象として、クリエイター気質が非常に強い方なんじゃないかという直観がありました。傍目からご活躍をみていると、本当にファッションが好きなんだと伝わってきますし、女優としてだけでなく、ミュージシャン、アーティストとしての一面も披露されていたりと、率直にクリエイションを介して何か一緒にやりたいという思いがあったんです。
のん:今回のお話を受けてすぐすごく面白そうだなと思いました。特に、靴とのコラボレーションは初めてのことだったので素直にワクワクしましたね。
——デザインの具体的にどういったことが出発点になったのですか?
坂部:のんさんが絵を描いてきてくれたんです。それがコラボレーションのスタート地点としてとても良かった。
のん:そうですね。デッサンをして、色を塗り、その絵と〈grounds〉のソールやアッパーをコラージュした画像を資料として作り持っていきました。はじめは淡い色合いでしたね。少しずつ描きたしながら、最終的にはアッパーの部分をマーブル模様にしたくて、坂部さんに画像をみていただきながらデザインをかためていきました。
坂部:そのイメージをもとにして、僕たちの方から追加で何種類かカラーリングを提案しました。そこからは、実際につくったサンプルをのんさんと一緒に見ながら選んでいったというプロセスですね。〈grounds〉としても主張の強いマーブル柄はやったことがなかったので、〈grounds〉のソールやフォルムとどう混じり合っていくのか……僕たちも想像できていない状態でした。
——のんさんが描き下ろされたのですね。
のん:はい。自分は絵を描くのが好きなんですが、色と色がグシュっと混ざり合っているような柄の靴を、まず私自身が履いてみたかったんです。コラボレーションも意識していて、マーブル模様が〈grounds〉のソールともピッタリ合う気もしていました。当初イメージしていたパステルカラーよりも、提案してもらった鮮やかなのも良いなと思って、今回のふたつのカラーリングに決まりました。
坂部:透けていて抽象的なソールと、のんさんが描いたグラフィックの流動的な感じとのマッチングが想像以上に良かった。僕たちも模索しながらだったのですが、やっぱりコラボレーションは、自分たちだけではできない範囲に入れることが一番大きい。今回のコラボで〈grounds〉としても新しいクリエイションに触れられたように感じています。
——印象的かつ流れるようなグラフィックが、〈grounds〉の最大の特徴であるアウトソールの彫刻的な印象をかえって際立たせているように感じました。調和しているのに、どこか曖昧な感じも。
坂部:そうですね。第一に、のんさんとやるなら〈grounds〉でやってこなかったけど、特徴的なデザインにしたいという思いがありました。結果的に、普通のスニーカーじゃないところにたどり着けましたね。
のん:シューレースの部分も、実は中敷きも、マーブル模様になっているんです。〈grounds〉のロゴも、流れるイメージで、揺らしていただきました(笑)
——〈grounds〉とのコラボレーションや、コミュニケーションの中で印象に残ったことはありますか?
のん:オフィスに伺ったときにスニーカーがずらっと並んでいて、坂部さんをはじめ〈grounds〉が作った“もの”からたくさんの刺激を受けました。これまで色々なコラボをされてきて「こんなこともできるんだ」って、私が今まで見たことのないスニーカーをいっぱい見せていただいたので。一つひとつ個性的で、あんなのもあるんだ、こんなのもあるんだと楽しませてもらいました。
坂部:これまでのコラボ以上に今回重きを置いたところでもあるんですが、のんさんが〈grounds〉を見据えながら、思い描いたものや考えたものを忠実にやっていくというスタンスがベースにありました。そうしたプロダクション的な側面に加えて、のんさん“らしい”感じを僕たちなりにイメージしていきたかった。たとえば、先ほど撮影が終わったばかりのビジュアルでは、コラボした靴をかっこよく見せるという目的だけではなく、ご本人が持っている“らしさ”とクリエーションが調和した世界観の中で、靴を見せたいという意図がありましたね。
のん:撮影、すごく楽しかったです!
坂部:短時間ではあるけどけっこう日差しが強かったし、体勢がすごい大変でしたよね(笑)。すごいバランス感覚だった……
のん:腹筋をかなり使いましたね(笑)。素敵だったので完成が楽しみです。
——のんさんが描き下ろした絵からスタートしたというのもご本人“らしさ”と直結していますね。
坂部:はい。そこがとても良かったんです。個人的にも、のんさんの絵の描き方がすごく好きなんですが、普段はどんな絵を描くんですか?
のん:嬉しいです(笑)。女の子を描いた絵が多いですね。最近はアクリル絵の具ばっかり使っています。カンバスをおいて、ベタベタと。
坂部:今回のニットアッパーのアートイメージも、コラージュしてくれたデッサンもそうなんですが、のんさんの手の癖は、力強さもあるけど、流れを作るタイプだと思うんです。勝手ながら落書きっぽいのがすごく良さそうだなと思いました。
のん:本当ですか!落書きっぽいのも極めようかな(笑)
坂部:絶対に合いますよ。絵のなかでも、落書き的な質感のものって明らかに描き手の癖が出るじゃないですか。ある種、絵は写真よりも上手になることはない。やっぱりドローイングやペインティングは、その人らしさが手を介してどれだけ出ているかってところが大切で、のんさんのタッチには、強さとしなやかさが共存している気がするんですよ。しかも、癖という意味でいうと、その線や色味のチョイスなどは、性格や人間性とも関係している。絵の特徴として、すごく魅力的だなと思ったんです。
のん:ありがとうございます(笑)。そういうふうに言われたことはあまりなかったんですが、確かに「力強い」のかも。細かく描いたりはしないというか、あまり、できないんですよね。
坂部:文字の場合はどうですか?
のん:そんなに繊細な文字じゃないです(笑)。あと、真っ直ぐに書けないんです。
坂部:均質に、真っ直ぐに書く必要もないですしね(笑)
Photography : Yuichi Ihara
Hair & Make : Shie Kanno
Text : Tatsuya Yamaguchi