「すべては自分が履きたいかどうか」 最上もが×坂部三樹郎:対談前篇

「すべては自分が履きたいかどうか」 最上もが×坂部三樹郎

最上もがと〈grounds〉のコラボレーションアイテムを巡って、彼女と旧知の仲でもある〈grounds〉のディレクターで〈ミキオサカベ〉デザイナーである坂部三樹郎が対談。グレイッシュな紫のボディにパンジーの刺繍が施されたシューズは、どのように生まれたのか? 二本立ての前篇では、コラボの経緯やプロダクトへのこだわり、〈grounds〉の特徴のひとつだという「重力のデザイン」にせまります。

 

最上もが 坂部三樹郎 grounds コラボ最上もが(もがみ もが)
1989年2月25日生、東京都出身。ドラマや映画、バラエティ、ファッション誌などに出演しさまざまなメディアで活動中。

 

——今日の最上さんの衣装は、〈ミキオサカベ〉のアーカイブコレクションから坂部さんが自らセレクションしてきたそうですね。 

坂部三樹郎(以下、坂部):膨大な量の中から絞って、シャツは2つ持ってきました。

最上もが(以下、最上):どっちでもいいと言われましたけど(笑)

坂部:似合いそうだったからですよ(笑)。ワイドパンツは、日本の特殊なナイロン素材。海外ではナイロン素材はスポーツやアウトドア用の生地という認識だけど、エレガンスの代表格である〈シャネル〉も採用している日本製は、独特な透け感と質感があり、非常に繊細な表情があるんです。そこに、花という「生きているもの」を装飾して有機性を加えつつ、壁紙のような平面的な絵柄にすることでナイロンがもつ無機質なイメージとのバランスをとったデザインですね。こうしたギャップが、僕の思う、もがちゃんのイメージと合った。パッと見だと無機質っぽいけど、話していると人よりも人間らしいという独特なバランスがあるというか(笑)。

最上:なるほどです(笑)。誰でも着られる服を作るのが一種の流行になっているように思うけど、三樹郎さんの服って誰でも着られるわけじゃないですよね。個性を追求していて本当にぶれないし、例えば、このパンツもデザインはかわいいのに相当ウエストが細くて(笑)。服に着せられるんじゃなくて、その服を着られる人をちゃんと選んでくれたんだなと思いました。

坂部:このシェイプが入るのは本当にすごいですよ。コルセットをしているのが一般的だった1900年以前の歴史衣装のパターンからとっているから、現代の人はほとんど穿けないんじゃないかな……。

最上:自分のために作られたのかと思えるほどサイズはちょうどでした。ただ、ぼくは体型維持のために身体を鍛えたり色々としているけど、試着して驚く人は多いんじゃないですか?

坂部:おっしゃる通り(笑)。ただ、着やすさだけを考えるのはつまらない。世の中にオーバーサイズな服なんていっぱいあるから。〈grounds〉の靴もそうですが、現実と地続きにある何かしらの未来の感触を、着る人や履く人が感じ取ってくれると良いなと常々思っていますね。

 

——フットウェアが圧倒的な存在感を放っていた〈ミキオサカベ〉の2020s/sのショーの後、「人間と地球の接地面でもあるフットウェアからデザインを考えた」といったお話しをされていたのを思い出します。

坂部:ここ最近ずっと「重力」のことを考えているんです。寝ていると楽で、立つと疲れるだとか。それは人間が、重力と向き合って日々を生きているということ。一方で僕は、その人を取り巻く「環境」を変えると、人間の人生は変わるんだと思っている。つまり、僕たちと重力の関係性が一変すると人生も変わるんじゃないかと。ファッションもそうした「環境」のひとつですからね。

 

——そうした思索はプロダクトにどのように反映しているのですか?

坂部:例えば、ウェイト。軽い靴を2〜3日履くと、その軽さという機能性に慣れてしまって軽いかどうかがわからなくなる。そうした人間の身体感覚の退化が気になるんです。いわば、普段の生活をしている中で身体をフル活用させる方に興味がある。それは「重力のデザイン」といえるかもしれない。

最上もが 坂部三樹郎 grounds コラボ

 

——ファッションを自発的にどう選ぶのかが、自分の生活の「環境」を変えていくこととつながっているのですね。 

最上:この洋服を着たいから痩せようだとか、先ほどの衣装のように、選ぶよりも選ばれるようにするという視点も大事ですよね。ぼくは、似合うかどうかよりも「かわいいかどうか」の判断が多いです。ファッションは変化でしかないと思っているし似合う自分になれば良いと思ってます。この靴がかわいいから履きたいのに合う服を持っていないなら、今まで手を伸ばさなかったかもしれない、靴に合う新しいもの取り入れようって、ぼくはなりました。それに、日常生活の中で楽なことばかりを選んでいくと、どんどん疲れやすくなったりしませんか?

坂部:本当にそう。楽をするのがリラックスしている状態なのかというと意外とそうでもない。喜びを感じる心身の使い方はあるし、自分にとってちょうど良い生活のリズムを作りだすファッションに可能性を感じているんです。

 

——grounds〉のはじめの印象は、ひと目で記憶に残るデザインに加えて、実際に履いて歩いたときの未体験の身体感覚でした。

最上:そうなんです。ちょっと浮いているような感覚があるんだけど、実際に履いてみるととにかく歩きやすくて。ソールが高いと転ぶんじゃないかって心配になるけど、走っても安定感があるし足を包み込んでくる感じにびっくりしましたね。〈grounds〉を初めて知ったのはもふくちゃん(でんぱ組.incのプロデューサー)が履いているのを見たときでした。「かわいいって言われるからいつも履いてるの」って(笑)。そこからぼくも欲しくなりました。

最上もが 坂部三樹郎 grounds コラボ

 

——当時でんぱ組.incの衣装を手掛けていた坂部さんと、最上さんのコラボレーションはどのようにスタートをきったんですか?

坂部:最初は友達として再会して食事をしたのがきっかけかな。会話の自然な流れで、久しぶりに仕事もしたいねと。

最上:ぼくがでんぱ組.incを抜けた後、当時のメンバーやスタッフの方々との関わりがなくなっていたんです。アイドル時代の自分を一度リセットして心を落ち着けたかった期間で。もふくちゃんとは連絡をとっていて、「三樹郎さん、元気かな?」とふと話をしたら「じゃあ展示会に行こう」と言って間に入ってくれたんです。そこから忘年会に呼んでもらって一緒にやるならコラボレーションをしようと思いました。

 

——コラボレーションをしてデザインが進められていく中、軸になっていたことは?

坂部:まず、もがちゃんが良いと思える要素を軸にすることは大事でしたね。素材や色の方向性を決めてもらってから何種類かサンプルを作り、何度も話し合っていく。

最上:わがままを言って(笑)。いつも変わらない姿勢なんですが、コラボレーションをするなら何かしら自己主張をしたいし、自分が好きと思えて、かわいくて、「日常的に履きたい」と思えるものを作りたいですね。ぼくはファッションデザイナーではないし、自分が純粋に良いと思ったものしか人に勧められないです。でんぱ組.incのメンバーカラーだった紫をボディの色に選んだのも同じ理由で、大きさや色みを繰り返し調整してもらったパンジーの刺繍や主張の強い黄色のタグも気に入っています。形という面では〈grounds〉であまり展開されていなかったハイカットの仕様にしました。

最上もが 坂部三樹郎 grounds コラボ

坂部:それぞれの要素が絶妙なデザイン的アクセントになっているし、紫とグレーのグラデーションはフューチャリスティックな感じもある。主張を残したまま、性別も問わない履きやすいカラーリングになっていて、純粋にもがちゃんらしいものができたなと思いますね。

 

——grounds〉の代名詞でもある個性的なクリアソール「ジュエリー」や、ニットアッパーは継続しています。履いてみてどうですか?

最上:ぼくは極度な外反母趾なんですけど、それに関してはまったく痛くないのでおすすめですね(笑)。あと、ツイッターでもらったコメントでサイズ展開の「.5」がないという意見もあって。ぼくは普段、23.5cmなんですけど、〈grounds〉は23cmでぴったりなんですよね。

坂部:硬いレザーシューズはサイズを刻んで揃えた方が良いけど、伸縮するニットは紐の結び方でカバーできる。むしろスニーカーの表情は、その人のファッションやスタイル、好みによるところもあるので、もがちゃんのように小さいサイズを選ぶ人もいるし、シューレース紐きつく絞って大きく履く人もいるよね。

最上:そうですね。あとは、水たまりを気にせず踏めるし、簡単に洗えるというのもけっこう重要ですし、雨の日は、靴を選びますからね。

坂部:スニーカーを履く女性が少ない理由はフラットなものが多いことにあると思うんですよ。一般的なスニーカーの中でも〈grounds〉はヒールも高いから背が低くてもスタイルをよくみせられる。それに加えて、厚底だと外見がかなり重々しく見えがちだけど、透明にすることで直感的には重さを感じさせないのも特徴ですね。 

(後編に続く)

Photography : Yuichi Ihara
Hair & Make : Hitomi Mitsuno
Text : Tatsuya Yamaguchi

 

COLLABORATION LOOK

JEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - groundsJEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - grounds

JEWELRY X 最上もが コラボレーションモデル - grounds


COLLABORATION LOOK
Photography : Eiki Mori
Hair & Make : Hitomi Mitsuno