「私が好きな組み合わせ」 島崎遥香×坂部三樹郎:前篇

grounds Shimazaki Haruka collaboration

AKB48のメンバーで、現在は女優やタレントとしても活躍する島崎遥香と〈grounds〉がコラボレーション。ディレクターの坂部三樹郎との対談前篇は、水色と黒のふたつのカラーリングで展開される彼女の嗜好が詰まったシューズと、そのプロセスを振り返ります。

 

——おふたりの親交はいつごろからですか? 

島崎遥香(以下、島崎):きっかけは、2014年ごろに伊勢丹でやっていた〈Jenny Fax〉のポップアップですよね? その頃、実は私、めちゃめちゃ病んでいて「伊勢丹でいっぱい買い物するぞ!」って日だったんです(笑)。ハイブランドがたくさん並ぶ中で、どんなブランドよりも〈Jenny Fax〉の洋服が可愛くて一気に好きになりました。その後ファッションショーに呼んでもらったんですけど、道に迷っちゃってスタートに間に合わず、すごく悲しかったことを今でも覚えています(笑)。

坂部三樹郎(以下、坂部):そうそう(笑)。バックヤードで観てもらったんだよね。そのポップアップ以降、展示会にも来てくれたり、ぱるるがモデルをしてくれた『装苑』での〈Jenny Fax〉の撮影に立ち会ったことはあったけど、直接的な仕事という意味では今回がほぼ初めてですね。

島崎:どんな現場でも衣装さんが色々と用意してくれるんですけど、直感的に「これ可愛いですね」というのは〈MIKIOSAKABE〉か〈Jenny Fax〉のどちらかなんです(笑)。だから、本当に好きなんだなあっていつも思っています。

 

——ショルダーラインが特徴的な今日の衣装も〈MIKIOSAKABE〉ですね。

島崎:私は自分のスタイルとして肩が狭いことが気になっていて、アイドル時代もバランスが良くなるのでパフスリーブの衣装を選ぶことが多かったんです。首が長いのが変に目立つのも避けたくて、襟があったりタートルネックのものの方が好みですね。

grounds Paruru collaboration

坂部:これまで〈MIKIOSAKABE〉のショーピースも含め、いろいろなタイプの服を着てもらっているんですけど、今回は広く知ってもらいたいコラボレーションでもあるし、コレクションの中でもより一般的なラインで、シェイプに特徴のあるものがいいと思って選びました。

——今回のコラボレーションはどのようにスタートしたのでしょうか?

坂部:いつも通りだけど、ビジネスの話をしようとした明確な線引きはないですね。ファッションのこと全体に興味があると話してくれて、それなら『GINZA』のエディターに会いに行ってみよう、だとか……。

島崎:「よーい、スタート」みたいな始まり方ではなかったですね。『GINZA』の連載(「見習いエディター、ぱるるが行く!」)もコロナの影響で進行が延びましたけど、三樹郎さんと話をしていた頃は、たしかコートを着ていたのでもう一年前かもしれない。あっという間ですね!

坂部:そうだね。仕事の話も、ファッションの話も、普通の話もあり、その発展として人を紹介したり。いろんなことが混ざり合ったコミュニケーションだったけど、実際に〈grounds〉を愛用してくれていたから自然な流れだったんだと思います。 

島崎:スニーカーをいっぱい持っているんですけど、可愛いと思って買うのに履き心地がフィットしなかったり、いちいち靴紐を崩して履かないといけない靴だったりは、1、2回履いて終わってるものがたくさんあるんです。〈grounds〉はさっと履けるし、気付いたら毎日履いちゃうんです。

 

——〈grounds〉を初めて履いたときの印象を覚えていますか? 

島崎:最初は、不思議なバウンド感というか、これまで履いたことのない感覚でしたね。でも、3日間履き続けたら慣れてきて(笑)。それ以降はすごい楽になったんです。何時間も、何キロも歩きますという旅ロケがあったときに「履き慣れているシューズがいいですよ」と言われて、私物の〈grounds〉を履いて行ったこともあります。同じように何キロも歩くスタッフさんたちは、私の靴が気になっている感じでしたね。

grounds Haruka Shimazaki collaboration

 

——履き心地の変化をもたらすというのは〈grounds〉のデザインにおいても重要ですね。 

坂部:そうですね。スポーツブランドが展開するスニーカーは、スポーツがスタートなので機能を大事にしていて、もともとはランニングやバスケといった何かに特化して進化しているのでそれを一般の人が履くと軽いですよということが「売り」になっていた。ただ、今のぱるるの話と一緒で、すごく軽いスニーカーでも3日経つと慣れちゃうんですよ。つまり「軽さ」すらわからなくなっちゃう。そうすると普通のウエイトの靴を履けなくなったりもする。人は機能的なものを求めて生きているけれど、〈grounds〉のシューズは、普段の生活が楽しくなる方が良いと思ってデザインしていますね。

島崎:たしかに歩いていて楽しいんですよね。特に、独特な感覚にまだ慣れてなかった3日間はすごく楽しかった(笑)

坂部:嬉しいですね。軽いから楽だということだけを「幸せ」だと捉えるとスポーツ化が加速するだけ。日常生活との馴染ませ方を考えると「歩くのが楽しい」と感じられることは大切にしています。それに〈grounds〉のフットウェアは、他人が見ても気になる、印象に残るものにしたい。厚くてもソールが透けていて重く見えすぎないこともポイントで、柔らかさと女性らしさの部分でいうと重さが目立ってしまうことはファッションとしてダメだなと。外見的にも、重力の重さを感じさせないことは一貫したテーマですね。

Mikio Sakabe Shimazaki Haruka

 

島崎:三樹郎さんがいうとおり、これを履いていると注目されるからか、みんなに「その靴はどこの?」って絶対に聞かれるんです。「かわいいね」「かっこいいね」と言われるし、純粋に嬉しいですよね。

 

——では、今回のコラボのデザインについて教えてください。ふたつのカラーで展開したのはなぜですか? 

島崎:私のファンには女性も男性もいらっしゃるので、まず、どっちの人も履けるデザインにできたらいいなという思いがありました。水色は、私が一番好きな色で、シューレースはリボンの仕様になっています。青と赤の色の組み合わせが好きなので、水色に、ピンクのソールを合わせました。トータルで、私が好きな組み合わせだらけなんです。ただ、それだと男性は履きづらいかもしれないので黒も選びました。よく見ると、このニットボディの裏地に水色を編み込んでくれているので、一見すると違う印象のふたつがリンクしていて、別物じゃない感じに仕上がっているんじゃないかなと思います。

坂部:ぱるると〈grounds〉だけでなくファッションの話をしているときに、可愛いものを着るけど、黒めの大人っぽいものも着たいと、素直に言っていたのが印象的だったんですよ。他人に説明するときに分かりやすくしちゃうことが多いし「私は可愛い方が好きです」と言った方が明快ですよね。この説明も言いやすくしちゃうのかなと思ったら、つまり、両方好きですってことじゃないですか。例えば、これからカレーを食べたいと思っても、カレーなんて食べたくない日も普通にある。自分の一貫性なんて人生を通して実はほとんど無いんじゃないかと思うんです。一貫性から離れてデザインするときってどうしても迷うし、すごく難しいけど、ぱるるは、素直に自分が好きなものを黙々と伝えてくれた。それが、今回のコラボレーションのプロセスとしてとても良かったことのひとつですね。

grounds Shimazaki Haruka collaboration

 

島崎:好きならなんでも着ちゃいますね(笑)。いま、三樹郎さんが話してくれたことは自分では気付かない部分だし発見ですね。私って、話しても理解されないことが多いんですけど、三樹郎さんやジェンファンさん*1 はすごく理解してくれるから嬉しい。マイナスな部分をプラスに変換してくれる。

坂部:マイナスの部分っていう気はしないけどね。

島崎:(子どもが泣いている写真をプリントした〈grounds〉のポスターをみて)例えばこれも、「泣いてたらダメ」だっていう大人が多いと思うんですけど、ふたりは絶対にそうじゃない。太っていても痩せていてもいいじゃん、みたいに、普通は人が「これはダメだ」というものを違う視点で良いものと捉えてくれる。

坂部:若い頃から芸能界にいるから、こういう場ではこういうことしなきゃいけないというのがすごくあったんじゃない? 自分は芸能人じゃないからわからないけど(笑)。なんらかのルールがあって普通の人よりは厳しい環境だったんじゃないかなと思う。その一方で、自分たちはファッションデザイナーだから、そういうものに対してズレていたり、常識といわれるものに多少ぼやっとしていてもいい。いろんなタイプの人に対してポジティブな態度を自然ととっているのは、ルールに乗っ取ってないからという側面があるからかもしれない。とはいえ、ぱるるは、自分の意見を結構言うじゃん。それは本当にすごいことだと思うな。

(後編に続く) 

 

(*1)  ジェンファン:シュエ ジェンファン〈Jenny Fax〉デザイナー 


Photography : Yuichi Ihara

Hair & Make : Hitomi Mitsuno
Text : Tatsuya Yamaguchi